ある飲み屋のママさんが、店で営業中、結構飲んでいたにも関わらず、店が終わって家に帰ろうと自家用車に乗りこんで発進すると、ちょっと走ったところで警察に停められた。
後で聞いたことだが、飲み屋街でバスケットにおしぼりを入れて歩いている女性といえば、モロにどこかの飲み屋のママさんであるから、そういう人が車に乗り込んでいるのをみつけた場合、後をつけて行って捕まえるのだそうだ。
車を道路の左端に寄せて停めると、警官が近寄ってきた。完全に飲酒運転で捕まる展開である。
「あんた、飲んでるじゃないの?」と警官が聞いてきた。
「私、これから死ぬところだったんです・・。」
「は?」
思いもかけない返答に警官も一瞬、分けが分からなくなった。
「死ぬって一体何を言ってるのかね?」
「私、男にふられて・・私の身体の中にはすでにその人の赤ちゃんまでいるのに、遊ぶだけ遊ばれて捨てられたんです。もう、生きててもしょうがないから、このまま海に飛びこんで死んでしまおうと思って・・。
だけど死ぬっと怖いじゃないですか! だから私、勢いをつけようと思ってお酒をガブ飲みして、その勢いでこのまま海に飛びこみに行くところだったんです。」
そう言ってママさんは目からぽろぽろと涙をこぼし始めた。ウソ八百を並べながらも泣くことが出来るというのは、女性特有の特技であろうか。
「ちょっと待ちなさい。バカなこと考えるんじゃない!」
「もういいんです。飲酒運転で捕まえるんでしょ? 切符切って下さい。私にはもう、関係ありませんから・・。」
「ちょっと待ちなさい。もっと落ち着いて! 今日のところは家に帰りなさい。家は遠いのかね?」
「はい、ちょっと・・。」
「この近くには相談出来る人はいないのかね?」
「このちょっと先に友達が住んでますけど・・。」
「じゃあ、とりあえずその友達の家に行きなさい。苦しいことは人に話したらそれだけでも楽になるもんだよ。死ぬなんて安易に考えずに、まずはその友達に打ち明けてみてはどうかね。
さすがに運転させるわけにはいかないから、あんたの車はもう一人の警官に運転させよう。私はパトカーでついていくから。」
そういうことで、「友達の家」まで警官たちに送ってもらった。
しかし実際は、その家は友達の家でも何でもなくて、自分の家だったのだ。何のことはない。自宅まで送ってもらっただけだった。
「ありがとうございます・・。私、考え直してみます。」
「もう、死ぬなんて考えるんじゃないぞ。頑張って生きるようにな!」
そう言って警官たちは去って行った。結局キップは切られずに済んだ。
パトカーがいなくなった後、ママさんは「やべーやべー、危ないとこだったわ。」
と言いながらほっと胸をなでおろしたのだった。
※真似はしないで下さい。