ある人がスーパーの駐車場から、バックで車を出そうとしていたら、後ろから車が通りかかり、両者は接触事故を起こしてしまった。双方の運転手が降りてきて口論になった。
A 「何やっとんや!こっちがバックで出ようとしてたのくらい、見えるだろーが。」
B 「あんたがバックで突然飛び出してきたんだろーが!なんであんな勢いでバックするんや!避(よ)けられるわけがないだろ!」
というような言い合いをしていたところへ、ちょうどAさんの知り合いの「Fさん」が自転車で通りかかった。ちなみにFさんは、ヤクザではないが、果てしなくそれに近いお人である。
Aさんは待ってましたとばかりに今あったことを全部しゃべった。Aさんにとっては心強い味方の登場である。今度は、そのFさんがBさんにくってかかる。
「わりゃ、ワシの知り合いに車にぶつけとって、なんかゴネとるらしーのお! お前、家、どこや!名前と住所教えーや。火ィつけに行ったるけえ!」
「な、なんですか、あなたは! 一体誰なんですか。」
「じゃかましいわ! お前、今から黙って60万ほど持って来い。それからAの車、新車に買い換えい! そうせな、ワシんとこの若いモンがお前に何するか分からんで!」
Bさんは完全にビビってしまった。「す・・すいません! いや、60万と言われましても・・そんなお金持ってないですよ・・。」
「アコムとプロミスで借りてこい! 今すぐ行けーい! 死にたいんか、わりゃ!」
あんまり大声で騒ぐので、今度はAさんの方もビビり始めて
「ちょっと、ちょっと、Fさん。言い過ぎですよ。そこまで言わなくても・・。」
「えーけぇ。ワシに任せとけ。これは60万入るパターンじゃ。お前に30万、ワシに30万じゃ。」
「いや・・僕に、というのは分かりますが、何でFさんが30万取るんですか。」
「何か文句があるんか、コラ! 人がせっかく助けてやろーというのに! お前も死にたいんか、コラ!」
今度は怒りの矛先(ほこさき)がAさんに向いて来た。「いつからワシに口答え出来るようになったんや! あぁ!?」
「す、すいません、何でもないです! いや、この件は、もうこれで終わりということに・・。」
ぶつけたBさんの方も「すいません、僕の方も謝りますんで・・、もう勘弁したって下さい。」と、Fさんに謝る。そしてAさんもFさんに謝る。
両方が謝り出したので、Fさんもシラケたのか、「けっ、まぁええわ。お前ら、今度から気ぃつけえよ。しょーがないから許したるわ。」
と言って去っていった。何だったんだろうか、この人は。なぜか事故を起こした両者が、全然関係ない人に謝るという展開になってしまった。